女性ソロシンガー向け
「サクラ色の明日」
作詞・作曲:Abacon
総括例(評価)
A:そのまま提出、もしくは微調整で提出可能
B:修正は多いが提出の可能性あり
C:返却
【1A】
電車の窓 見慣れない風景
紙吹雪みたいに桜が舞う
ラッシュアワーの改札を抜けて踏み出した街に
動き出す未来と希望の音
【1B】
知らないドアを開ける時は
少(すこ)し不安もあるけど
きっと大丈夫 またひとつ 強くなれる Ah
【1サビ】
何でもできそうな気がする
夢の始まり そんな予感
迷(まよ)ってなんかいられない
咲き誇れワタシ! どこまでも広がる世界
サクラ色の(お)明日に
【2A】
天気予報 外れてドシャブリ
雨宿りしてる時間なんてない
雲の向こうには絶対青(あお)い空が広がっているから
いまはただ思いきり走りたい
【2B】
寒い季節を越えた後に
花(はな)を咲かせる蕾は
きっと大丈夫 またひとつ 強くなれる Ah
【2サビ】
何でもできそうな気がする
夢は逃げない 自分次第
止まってなんかいられない
咲き誇れワタシ! 信じれば輝く世界
サクラ色の(お)明日に
※1サビ繰り返し
総括(評価)
B:全体的なバランスは悪くないです。諸々の修正で提出できるレベルにはなるかと思います。
解説を読む
【1A】
電車の窓 見慣れない風景
紙吹雪みたいに桜が舞う
ラッシュアワーの改札を抜けて踏み出した街に
動き出す未来と希望の音
1A:全体
【A】としてのバランスは悪くないのですが、情景描写としてベタすぎる印象です。「ありがちな設定」と言えば伝わるでしょうか。ベタな描写ではなく、もう少しこの主人公独自の視点や切り口での描写が欲しいところです。「新しいスタートってこんな雰囲気だよなー」という漠然としたイメージだけで書かないようにしましょう。
【1B】
知らないドアを開ける時は
少(すこ)し不安もあるけど
1B:きっと大丈夫 またひとつ 強くなれる
3行目の「きっと大丈夫 またひとつ 強くなれる」が勿体無いです。前の2行も正直ベタすぎる内容ですが、3行目をブラッシュアップすることで歌詞として成立させることは出来るかと思います。落とし所として、「きっと大丈夫」だと拍子抜けします。3行目で急に「ポーンと放り出されたような感覚」になるのが分かるでしょうか? 歌詞を書くときのスタンスとして、基本的に「それっぽい耳障りの良いだけの言葉」に逃げるのはやめたほうがいいです。「大丈夫」や「苦しい」「嬉しい」のような言葉というのは、実は何のイメージも喚起出来ない言葉だということを覚えておいたほうがいいかと思います。「なぜ大丈夫だと思えたのか?」「どう苦しいのか?」「どう嬉しいのか?」それを言葉を尽くして描き上げるべきです。不安もあるけれど、「なぜ大丈夫だとこの主人公は思えたのか?」その心理、気づき、をしっかりと描くべきです。自分が普段曲を聴いている時のことを想像してみれば分かるかと思うのですが、「きっと大丈夫」と言われたところで、「はいはい、そういうよくある歌詞ね」という感慨しか抱かなかったことはないでしょうか?それよりも、アーティストオリジナルの視点・言葉で、「きっと大丈夫」という言葉を使わずに、「きっと大丈夫だと思えるような内容」を描いてくれるほうが、励まされたり、共感を覚えたりすると思います。そういう意味です。「不安もあるけれど、それさえ今は必要なものだと感じられる」「それさえ今はワクワクしてる」そんなこの主人公の心情を、安易なフレーズで丸投げするのではなく、表現者であるならそれをしっかりと言葉にして描き出してあげるべきです。心理描写をすべきところでは、抽象的なフレーズに逃げず、とことん具体的に心理を描ききる事と向き合うほうが、より深い描写になります。
ちなみに、前2行が内容としては正直ベタすぎると言いましたが(「新しいドアを開く」というような歌詞によくありがちな死語フレーズに逃げないほうがいいです)、そこを改善出来るような技術的なアドバイスが何かあるとすれば、1行目の「知らないドア」というありがちなフレーズを、この歌詞の内容(世界観)に沿って、改札のドアや電車のドアに置き換えて描くことで、この歌詞オリジナルの、この主人公独自の視点での表現にする、という方法もあるかと思います。その場合、【1A】を全て電車内での視点に変え、【1B】で主人公が初めて電車(もしくは改札)から出る、という設定で書くことで、【A】〜【B】にかけて、視点の動き(広がり・開放感)と時間軸の流れ(前進感)、という物語としての起伏を出すことが出来るかと思います。
【1サビ】
何でもできそうな気がする
夢の始まり そんな予感
迷(まよ)ってなんかいられない
咲き誇れワタシ! どこまでも広がる世界
サクラ色の(お)明日に
1サビ:全体
【A】・【B】の構成がしっかり出来ていれば、サビに関してはこれぐらいベタな内容でも成立はするかと思いますが、タイトル「サクラ色」というぐらいなので、前向き一辺倒ではなく、ほんのりどこかに「今この瞬間しかない」そんな儚さや刹那感を出せれば、作品としてもっと深みが出るかと思います。
【2A】
天気予報 外れてドシャブリ
雨宿りしてる時間なんてない
2A:雲の向こうには絶対青(あお)い空が広がっているから
3行目。ベタですがこのままでも歌詞として一応成立はすると思います。ただ、単なる情景描写に留まった書き方になってしまっているのがおしいです。この情景描写から、もっと主人公の心理が滲み出すような描き方をしてあげることで、2行目「雨宿りしてる時間なんてない」4行目「いまはただ思いきり走りたい」という、この【2A】全体での「立ち止まってなんていられない」という主人公の心理が、より切迫感を持って伝わってくるような内容になると思います。単に情景として描いてしまうのではなく、この「空模様」というネタをメタファーに、主人公の予感や期待という心理的側面にフォーカスを合わせつつ描くということです。例えば、「待ち合わせ場所で 君が私を呼んだ声が 街のざわめきに掻き消された」と書くとただの情景描写ですが、「待ち合わせ場所で 君が私を呼んだ声が 心地よく街のざわめきに溶けた」と書くと、情景描写であるにも関わらず、この主人公がどういう心理で相手を待っていたのか、という心理的側面にまで想像が及ぶ描写になったのが分かるかと思います。「情景で心理を描く」ことが出来るようになると、より表現の幅が広がります。
いまはただ思いきり走りたい
【2B】
寒い季節を越えた後に
花(はな)を咲かせる蕾は
【2B】
1Bでの解説と同様です。
【2サビ】
何でもできそうな気がする
夢は逃げない 自分次第
止まってなんかいられない
咲き誇れワタシ! 信じれば輝く世界
サクラ色の(お)明日に
【2サビ】
1サビでの解説と同様です。
※1サビ繰り返し
総括の解説全文
01:全体的なバランスは悪くないと思うのですが、終始ベタすぎる表現が多い点が気になります。厳しい言い方にはなりますが、「よくある歌詞」という印象です。「この作品でなければいけない」という個性があるかと言われれば、正直無いです。「歌詞っぽい言葉」というものに頼らずに書けるようになると、よりクオリティを上げていけるかと思います。 02:随所で表現の甘さ(おしさ)が目立ちます。いま自分が書こうとしているものが「心理描写」なのか、「情景描写」なのか、または「情景に心理を託した描写」なのか。それらをもっと明確に意識して使い分けられるようになると、より効果的に表現を操っていけるかと思います。 03:この歌詞のテーマである「サクラ」に関してですが、このような色濃く季節感の出るテーマを軸に据えるのはリスクが大きい、ということは知っておいたほうがいいかと思います。この業界ではよくあることですが、「リリースの時期がずれ込んでしまった」「シングル曲としてはリリースしなかったけれど次のアルバムに入れたい」ということが往々にしてよくあります。そういう場合に、このような季節が限定されてしまう曲というのは非常に扱いづらいわけです。ですので、「春をテーマにした内容で書いて欲しい」「ウインターソングの内容で書いて欲しい」等という発注でない限りは、なるべく「サクラ」や「雪」のような季節を限定するワードを使うことは避けたほうがいいかと思います。